なぜ北朝鮮は突然、韓国に怒り出したのか 隠された真意と真っ二つの韓国(毎日新聞)

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なぜ北朝鮮は突然、韓国に怒り出したのか 隠された真意と真っ二つの韓国
https://mainichi.jp/articles/20200613/k00/00m/030/154000c
毎日新聞 2020年6月13日 18時32分(最終更新 6月13日 22時49分)


北朝鮮批判のビラ散布に抗議する集会に参加した学生ら=平壌で2020年6月6日、AP

 韓国の脱北者団体が金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長の体制などを批判するビラを大型風船で北朝鮮側にまくことに北朝鮮が激怒し、2018年以降、緊張が緩和されていた南北関係に暗雲が漂っている。13日に初の南北首脳会談から20年を迎えたが、共同記念行事の開催どころではない状況だ。北朝鮮が突然、韓国を痛烈に批判し始めた背景には、緊張を高めることで、国内の引き締めを図る狙いがあるとの見方が出ている。

 「悪意に満ちた行為が『個人の自由』『表現の自由』という美名の下に放置されるなら、南朝鮮(韓国)当局は遠からず最悪の局面まで見込まなければならない」。4日、金氏の妹、金与正(キムヨジョン)党第1副部長が談話を発表。脱北者団体が5月31日に「偽善者 金正恩」などと書いたビラ約50万枚を散布した行為を非難した。

 翌5日には対韓国工作を担う統一戦線部の報道官名の談話で、開城(ケソン)工業団地にある南北共同連絡事務所の撤廃を予告。9日には南北間の通信連絡線を完全に遮断すると発表した。追加措置も示唆している。

 一方、韓国政府はビラ散布などを禁じるための法整備を進めるなど、関係の維持に腐心する。散布禁止は18年4月の南北首脳会談で採択された「板門店宣言」の合意事項の一つでもある。


金与正朝鮮労働党第1副部長=韓国・平昌五輪スタジアムで2018年2月、米村耕一撮影

 韓国統一省は、ビラ散布が承認なしに物品を北朝鮮へ送ることを禁じる「南北交流協力法」に違反するとして、脱北者団体を警察に告発。法人設立許可を取り消す手続きに入った。

 ただ、これまでもビラ散布は南北間で問題になったが、同法が適用されたことはない。保守系紙の朝鮮日報は「世界最悪の独裁者である兄と妹のために国民を告発した」と社説で批判。「対北ビラ禁止法」制定については世論調査でも賛否が真っ二つに割れている。

 韓国青瓦台(大統領府)は11日、「徹底的に取り締まり、違反があれば厳正に対処する」と発表。だが金与正氏は13日、談話で南北共同連絡事務所の破壊を示唆し「次の対敵行動の行使権は、我が軍隊総参謀部に渡そうと思う」とした。

 19年2月の第2回米朝首脳会談が「合意なし」に終わって以降、南北関係は停滞していたが、北朝鮮が韓国をここまで強く非難することは最近なかった。米国の関心を引こうとする意図も指摘されるが、このタイミングでの理由と考えられるのが、国内の引き締めだ。

 新型コロナウイルス対策で、北朝鮮は1月末に国境を封鎖。今も患者はいないとする北朝鮮だが、最大貿易相手国である中国などから食料や資材が入らなくなり、経済状況が悪化しているとされる。


就任3年に合わせ演説する韓国の文在寅大統領=AP

 北朝鮮としては10月に朝鮮労働党創立75年の節目を控え、住民の不満を抑え、国内の結束を高める必要がある。労働者らによる韓国への抗議集会や一連の韓国批判は、党機関紙「労働新聞」にも掲載されている。 丁世鉉(チョンセヒョン)元韓国統一相は10日の記者会見で「党創建75周年を成果で飾るためには、寝ずに走らないといけない状況だ。人民の団結と危機打開の動力を生み出すには外に敵が必要だ」と分析した。

国連、北朝鮮の経済悪化で「制裁再考を」

 「人々の生活に影響を与え、ウイルスへの対応を妨げる制裁は再考されるべきだ」。北朝鮮の人権問題を担当するトマス・キンタナ国連特別報告者は9日、声明を発表し、北朝鮮経済が悪化しているとして、制裁の柔軟な運用を求めた。

 声明によると、今年3~4月、北朝鮮の中国との貿易は国境封鎖の影響で以前よりも90%以上減り、国境沿いでは多くの人が収入源を失った。大都市では孤児を含むホームレスが増加し、医薬品の価格が急騰。トウモロコシ以外食べるものがない人が増え、兵士でも食料が不足しているという。

 ただこの状況が、食糧難で多数の餓死者が出たとされる1990年代の「苦難の行軍」と同程度であるかは、見方が分かれている。【ソウル渋江千春】

韓国の脱北者団体によるビラ散布を巡る動き

5月31日 脱北者団体が北朝鮮を批判するビラ約50万枚を散布

6月4日 北朝鮮の金与正・朝鮮労働党第1副部長が散布を非難する談話発表

6月5日 朝鮮労働党統一戦線部が報道官談話で南北共同連絡事務所の撤廃を予告

6月9日 北朝鮮、韓国との通信連絡線を「完全に遮断、廃棄する」と発表

6月10日 韓国統一省が脱北者団体を南北交流協力法違反で告発すると発表、法人設立許可の取り消し手続きに着手

6月11日 韓国青瓦台(大統領府)がビラ散布に遺憾を表明

6月 13日 金与正氏が再び談話を発表。「次の対敵行動の行使権は、我が軍隊総参謀部に渡そうと思う」

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