依存症に「なりやすい人」「なりづらい人」の差 「連ちゃんパパ」をダメ人間と笑えない理由
現代人を悩ます病のひとつに「依存症」があります。たとえばアルコール依存や薬物依存に加えて、ギャンブル依存、ショッピング依存などが有名です。新しいものだとスマホやSNS、ソーシャルゲームに生活に支障が出るほどのめり込んでしまう人も依存症と言えます。
依存症に「なりやすい人」「なりづらい人」の差 「連ちゃんパパ」をダメ人間と笑えない理由
また最近、ネット上で『連ちゃんパパ』というギャンブル依存症の父親が主人公のマンガが注目を集めました。高校教師であった主人公が、あることがきっかけでパチンコにのめり込み、職を失い、借金も膨らみ、自分のみならず子供や周囲の人たちを巻き込んで、どん底まで落ちていく話です。
この漫画を読んだ人は次のようなことを思うはず。なぜ、どん底に落ちるまでパチンコにハマってしまうのか。依存症になりやすい人、なりづらい人はいるのか。そして、自分にも依存症の危険性があるんじゃないかと。
「依存症」は決して他人事ではない
長年、精神科医として様々な依存症患者の相談に応えてきましたが、依存症になりやすい人の性質を言い当てるのはなかなか難しいです。
一昔前は、メンタル疾患と「性格」の関係性について調べる研究が多くありました。例えば、うつ病の場合は「真面目、几帳面、完璧主義の人」がなりやすいと言われていました。逆に「ルーズ、だらしいない、無頓着な人」がうつ病になりづらいかというと、そんなことはありません。だらしない人でもうつ病になる可能性はあります。
どんな人であっても、依存症やうつ病リスクがあると考えたほうがいいでしょう。
とはいえ、連ちゃんパパのようにパチンコにすべてを捧げる人がいる一方で、パチンコ好きでも、あまりのめり込まない人もいます。その違いはどこにあるのでしょうか? それは「遺伝子」にあります。
アルコール依存症の場合、依存症者の約3人に1人が依存症の親持ち、依存症の子どもの4人に1人はアルコール依存になるといわれます。双子研究によると、アルコール依存の発症に遺伝要因が占める割合はおよそ2分の1から3分の2と推定されています。
ギャンブル依存症においても、遺伝の関係性は指摘されています。アメリカのミズーリ大学の研究によると、家系にギャンブル依存症患者がいる場合、19%がギャンブル依存症予備軍。いない場合の発症率は5%なので、家族歴はギャンブル依存症を4倍にする、という結果が出ています。
具体的な遺伝子もすでに見つかっています。同じくミズーリ大学のギャンブル行動と人のゲノムDNAの塩基(SNP)との関係を調べた研究によると、rs11060736というSNPで「C」という遺伝子を持っているほど、ギャンブルにハマりやすい、という結果が出たそうです。
CC型(Cを2つ持つタイプ)はギャンブルに「最もハマりやすい人」で、その割合は5.2%。CT型(Cを1つ持つタイプ)の「ややハマりやすい人」は35.1%。TT型(Cを待たないタイプ)の「ハマりにくい人」は59.8%となっています。
依存リスク高める「脆弱性遺伝子」という爆弾
つまり、20人に1人はギャンブルにドハマりしやすく、3人に1人はハマりやすい遺伝を持っているということです。
ギャンブルにハマりやすい遺伝子を持っている人が、たまたまパチンコで大当たりを出して、その快感を知ってしまうと、そこから「パチンコ依存症」の蟻地獄に転落してしまう可能性が高いわけです。そして、1度転落してしまうと、そう簡単に元の状態には戻れません。
研究によれば、依存症の発病には「環境」や「性格」よりも、「遺伝」が圧倒的に重要であると考えられています。依存症には、複数の「脆弱性遺伝子」が関わっていて、それらを多く持っている人、または多く遺伝子が発現している人ほど依存症になりやすい、依存症を発病するという仮説が有力です。
「脆弱性遺伝子」というと難しく聞こえますが、わかりやすくいうと病気を発病させる「爆弾」のようなものです。ギャンブル依存の「爆弾」を持っている人が、たまたまパチンコをして「面白い!」と思うと、その爆弾が爆発してし、依存症に陥ってしまうわけです。
たった1回パチンコをしたがために、依存症に陥ってしまうのはこのためです。覚醒剤や危険ドラッグなどの薬物使用も、「たった1回なら大丈夫」と思って、面白半分に手を出す人も同様の理由で依存症に陥ります。
「脆弱性遺伝子」を持たない人は、何度も使用しない限り依存症にはなりません。しかし、「脆弱性遺伝子」を持つ人は、たった1回の薬物使用でも爆弾が爆発し依存症に陥ります。
同じような刺激が欲しくなってどうしようもなくなり、さらに強力な薬物に手を出して、あっという間に薬物依存症となり、抜け出せなくなることもあります。仕事も失い、廃人同様となり、薬物過量投与で死亡する危険性もあります。
ちなみにアメリカでは年間7万人の人が、薬物の過量投与で亡くなっています。「脆弱性遺伝子を持つ人=ドハマりする人」にとっては、「たった1回」の面白半分の使用で、人生を棒に振る可能性が高いのです。
「依存症に注意したほうがいい人」の特徴
遺伝子が人間に大きな影響を与える一方で、行動や性格が依存症とまったく関係ないわけではありません。最後に依存症を注意したほうがいい人、依存症になりやすい人の傾向についてお伝えします。
(1)真面目で几帳面なタイプ
依存症の人は「ルーズ」「だらしない」というイメージが強いです。しかし、「ルーズ」で「だらしない」から、依存症になるわけではありません。逆に、真面目で几帳面な人ほど注意したほうがいいと考えます。
真面目で几帳面で責任感のある人は、仕事も決して手を抜かず、上手に休息をとるのが苦手です。そして、人に迷惑をかけたくないので、仕事や責任、ストレスを自分1人で抱えてしまいがち。そういった人ほど依存症だけでなくうつ病リスクも高いので注意してください。
(2)ストレスを1人で抱えるタイプ
ストレスを1人で抱えやすい人も要注意。「ストレス発散」のはけ口を、お酒やギャンブル、ショッピングなどに求めると、依存症に陥る危険性があります。
リスクを避けるためにも、できるだけ「人に相談する」「悩みを人に明かす」ことをおすすめします。
相談には5つのメリットがあります。
① ストレス発散効果。ガス抜き効果。
② 対処法が示される
③ 頭の中が整理される
④ 自己コントロール感が得られる
⑤ 問題が解決される
『学びを結果に変える アウトプット大全』(樺沢紫苑著、サンクチュアリ出版)より引用
あまり人に相談をしたことがない患者さんたちに、その理由を訪ねると「相談しても、解決できるような問題ではない」と口を揃えて言います。ですが問題解決というのは、相談の効果のほんの一部分にすぎません。
問題は解決されなくても、感情的なガス抜きによって、ストレスや不安、心配が大きく減ればいいのです。困ったら悩みを一人で抱えないこと。とにかく、人に相談するようにしましょう。
(3)ギャンブルや飲酒でストレス発散するタイプ
ストレス発散を目的に「お酒」を飲む人も多いでしょう。ですが、お酒を飲んでも、一時的に気分がよくなるだけで、ストレスの発散にはあまり役立ちません。飲酒量が増えると、ストレスホルモンも増加します。
お酒を飲んでストレス発散できたというのは高揚感による思い込みにすぎません。もし落ち込むたびに現実逃避するためにお酒を飲んでしまうと、問題は先送りされるだけで、ストレスも飲酒量も増えるばかりです。
一方で、「お酒を楽しむ」こと自体を目的とする人は、一杯一杯をじっくりと時間をかけて味わいます。おいしいその一杯に満足します。
同様にストレス発散や現実逃避を目的に「ギャンブル」「ショッピング」「ゲーム」などを行うのは依存症の近道なので、あまりおすすめできません。
ではストレスはどう解消すればいいのか? 睡眠や運動、朝散歩、そして人とのコミュニケーション(つながり)が、依存症リスクのないストレス解消法です。
それでも依存症になったらどうするか?
もしもあなたや家族がギャンブルやアルコールなどの「依存症」に陥ったら、どうすればいいでしょう。
依存症を一人で治すことは困難です。専門家の助けや治療が必要です。依存症が疑われたら、依存症外来のある精神科を受診したほうがいいでしょう。
依存症外来を持つ病院や、病院を受診すべき水準を知りたい場合、あるいは依存症の疑いがある家族がどうしても病院に行きたくないという場合は、地方自治体が行っている依存症相談窓口に相談してみてください。匿名の電話相談も可能です。相談窓口については、「依存症 相談 (都道府県、市町村名)」と検索するとわかります。
依存症のトリガーとなる「脆弱性遺伝子」を、ほとんどの人は知らないはず。「たった1回なら大丈夫」という考え方でギャンブルや薬に手を出すのは危険です。つまり、君子危うきに近寄らずで、依存リスクがあるものには手を出さないことが最大の予防につながるわけです。